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2026/07/12 20:23 ~ なし
第17回 なぜ経済なのか
「大学で、何を学びたい?」
塾長・山下のその問いは、涼介にとって「なぜ大学に行くのか」よりも、さらに答えにくいものだった。
正直に言えば、学びたいことなど、これまで考えたこともなかった。
大学は、「就職に有利」「周りが行くから」「高卒よりマシ」
そんな理由の集合体にすぎなかった。
沈黙する涼介を見て、山下は責めなかった。
「じゃあ逆に聞くけどさ、ニュース、見てて分からないことってない?」
一瞬、涼介の脳裏にいくつかの場面が浮かんだ。
物価が上がった、というニュース。円安、円高という言葉。なぜか給料は増えないのに、値段だけが上がる現実。
「……正直、よく分かりません」
山下はうなずいた。
「それ、普通だよ。でもね、経済って“正解を覚える学問”じゃない」
ホワイトボードに、山下はゆっくりと円を描いた。
「人がどう動くか」「お金がどう流れるか」「制度が、どんな結果を生むか」
「経営は、社会を考えるための道具なんだ」
涼介は、少しだけ背筋を伸ばした。中学・高校でやってきた勉強は、答えが決まっているものばかりだった。だが、社会のニュースに出てくる問題は、どれも一つの答えでは説明できない。
「涼介さんはさ、一度レールから外れたよね」
その言葉に、涼介は苦笑した。
「でも、外れたからこそ、どうしてうまくいかなかったのかを考え始めた」
「それって、経済を学ぶ人間に向いてる視点だと思う」
向いている。その言葉に、涼介の胸がわずかに熱くなった。
「経済を学べば、すぐに正解が見つかるわけじゃない」
「でも、考え続ける力は確実につく」
山下は、最後にこう付け加えた。
「“立て直した経験”を持ってる人間ほど、社会を現実的に見られる」
涼介は、初めて「学部」というものを、自分ごととして考えていることに気づいた。
逃げるための大学ではない。保険としての進学でもない。考えるために行く大学。
その言葉が、ゆっくりと涼介の中に根を張り始めていた。
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